2026/07/30
「気持ちを切り替えて」だけでは防げない|職種で異なる感情労働とバーンアウト対策
「仕事なのだから、感情を表に出してはいけない」
「嫌なことがあっても、気持ちを切り替えなければならない」
「相手の前では、いつも冷静でいなければならない」
接客、医療・介護、教育、公共サービス、管理職など、人と関わる仕事では、自分の感情を調整しながら働くことが求められます。
仕事の場面に応じて感情を調整する力は必要です。
しかし、感情を抑え続けることが当たり前になると、本人も気づかないまま疲労が蓄積し、バーンアウトにつながる可能性があります。
この記事の結論
感情を整える方法とバーンアウトの関係は、職種によって異なります。
そのため、全社員に同じセルフケアを教えるだけでは十分ではありません。
大切なのは、
- どのような仕事をしているのか
- 誰に対して感情を抑えているのか
- どの感情を表してはいけないと感じているのか
- 本人の対処で対応できる問題なのか
- 仕事や職場環境の見直しが必要なのか
まで捉えることです。
本人の感情調整を支援すると同時に、仕事量、役割、顧客対応のルール、相談環境などを見直す必要があります。
感情を整える方法とバーンアウトの関係
2026年7月20日にオンラインで先行公開されたメタ分析では、57研究、65の独立したサンプル、29,053人、351の効果量を統合し、感情調整とバーンアウトの関係が検討されました。
研究では、主に次の2つの感情調整方法が扱われています。
認知的再評価とは
認知的再評価とは、出来事の意味や捉え方を見直す方法です。
例えば、厳しい意見を受けたときに、「自分を否定された」と捉えるだけでなく、「改善してほしい点が含まれているのかもしれない」と、別の角度から状況を見直します。
研究では、認知的再評価は、全体としてバーンアウトの低さと関連していました。
特に教育職では、その保護的な関連が強くみられました。
表出抑制とは
表出抑制とは、感じている感情を、表情や態度に出さないように抑える方法です。
例えば、不安、怒り、悲しさ、戸惑いを感じていても、表面上は何もなかったように振る舞います。
研究では、表出抑制はバーンアウトの高さと関連していました。
特に公共安全職では、教育職や医療職よりも、その関連が強く確認されました。
つまり、感情をどのように扱うかとバーンアウトとの関係は、すべての職種で同じではありません。
仕事で求められる役割、対人関係、感情の表し方に関する暗黙のルールなどによって、負担の現れ方が変わる可能性があります。
なお、この研究が示しているのは、感情調整とバーンアウトの「関連」です。感情を抑えることだけが、直接バーンアウトの原因になると断定するものではありません。
「前向きに考える」だけでは解決しない
認知的再評価は、何でも前向きに考えることではありません。
実際に仕事量が多すぎる場合や、理不尽な顧客対応が続いている場合、役割や責任が曖昧な場合まで、本人の捉え方だけで解決しようとすると、職場の問題を本人へ押しつけることになります。
例えば、次のような状態です。
- 患者や顧客の前では、つらくても笑顔を保っている
- 部下の相談を受け続け、自分の弱音を出せない
- 怒りや違和感があっても、職場で言葉にできない
- 「支援する立場だから」と、自分の疲労を後回しにしている
- 不適切な要求を受けても、自分の対応力の問題だと考えている
- 相談しても状況が変わらないため、話すことを諦めている
このような場合に必要なのは、「もっと上手に気持ちを切り替えましょう」という助言だけではありません。
感情が生じている場面と、その背景にある仕事、役割、人間関係、職場環境を一緒に確認する必要があります。
職種や役割で異なる「見えない感情労働」
同じ会社や組織の中でも、職種や役割によって感情の負担は異なります。
医療・介護・支援職
患者や利用者の不安、怒り、悲しみに接しながら、自分は落ち着いて対応することが求められます。
人を支えることへの責任感が強いほど、自分の感情や疲労を後回しにすることがあります。
接客・顧客対応職
理不尽な要求やクレームを受けても、丁寧な対応を続けなければならない場面があります。
表面上は冷静に対応できていても、身体や心に緊張が残っていることがあります。
教育職
子どもや学生への配慮、保護者対応、職場内の調整など、複数の相手との関係を同時に考える必要があります。
「教育者としてこうあるべき」という思いが、自分の感情を表しにくくすることもあります。
管理職
部下を支える一方で、経営側の意図や目標も現場へ伝えなければなりません。
上からの要求と現場の事情の間に立ち、自分の不安や迷いを見せられないまま、調整役を続けていることがあります。
このような違いがある以上、全社員に同じセルフケア方法を伝えるだけでは、十分な支援にならない場合があります。

感情の問題を、本人だけの問題にしない
社員の感情消耗が見られたときには、本人の感情調整力だけでなく、次の点を確認する必要があります。
- どの相手に対して感情を抑えているか
- どの場面で負担が大きくなるか
- どの感情を表してはいけないと感じているか
- 捉え直すことで対応できる問題か
- 仕事量や役割を見直す必要はないか
- 顧客対応やクレーム対応の基準が決まっているか
- 感情や状況を話せる相談先があるか
- 相談した後に、現実の仕事や環境が変わっているか
社員がどれだけセルフケアを学んでも、相談しても何も変わらない職場では、消耗が繰り返されます。
本人が自分の状態に気づくことと、組織がその声を受け取り、必要な改善につなげることの両方が必要です。
自己信頼プロセス™から考える感情との向き合い方
株式会社リベラルマネジメントでは、感情を無理に抑えたり、すぐに前向きな言葉へ置き換えたりするのではなく、自己信頼プロセス™の5つの段階から捉えます。
1.気づく
どの場面で、どの相手に対して、どのような感情を抑えているのかに気づきます。
感情だけでなく、身体の緊張、疲労、集中力、行動の変化も重要なサインです。
2.聴く
「本当は何を負担に感じているのか」「何を我慢しているのか」を、自分に問いかけます。
怒りの背景に不安がある場合や、悲しさの背景に悔しさがある場合もあります。
3.つながる
感情を本人の性格だけで説明せず、仕事、役割、相手との関係、職場環境とつなげて考えます。
「自分が弱いから疲れている」と結論づける前に、疲労を生み出している状況を確認します。
4.選ぶ
出来事を捉え直す、相手に伝える、上司へ相談する、仕事の進め方を変える、一定の距離を取るなど、その場に合った対応を選びます。
5.信じる
感情を否定せず、自分の状態と置かれている状況を理解したうえで、必要な行動を自分で選べる状態を育てます。
自己信頼とは、いつも前向きでいることでも、一人で我慢することでもありません。
自分の感情や身体のサインを受け取り、必要な支援や行動を選べることです。
管理職と組織が確認したい5つのポイント
感情労働による消耗を防ぐため、管理職や人事担当者は次の点を確認してみてください。
- 特定の職種や担当者へ、感情的な負担が集中していないか
- 顧客、患者、利用者からの過度な要求に対する対応基準があるか
- 困ったときに、一人で抱え込まず相談できるか
- 相談内容が、仕事量や役割、対応方法の見直しにつながっているか
- 管理職自身が弱音や迷いを話せる支援先を持っているか
感情を適切に扱える社員を育てることは大切です。
同時に、社員が感情を抑え続けなくても仕事を進められる仕組みをつくることも、組織の重要な役割です。
このような課題がある企業・団体へ
次のような状態がある場合は、個人へのセルフケアだけでなく、管理職の関わり方や職場環境も含めて確認する必要があります。
- 接客・医療・介護・教育・支援職の疲労や離職が続いている
- セルフケア研修を実施しても、職場の状態が変わらない
- 管理職が部下の相談を一人で抱えている
- 顧客対応による消耗を、本人の対応力の問題にしている
- 個別面談で課題が見えても、組織改善につなげられていない
- 「相談しても変わらない」という空気が職場にある
- 研修、面談、管理職支援が別々に行われている
一律のセルフケアから、職場に合った支援へ
セルフケア研修は、自分の状態に気づき、対処方法や相談方法を知るための大切な入口です。
しかし、研修を実施するだけで、仕事上の感情負担がすべて解決するわけではありません。
職種、役割、対人関係、仕事量、職場の相談環境まで確認し、必要に応じて管理職支援や仕事の見直しにつなげることが重要です。
株式会社リベラルマネジメントでは、心理学領域の知見と、のべ7,200件を超える個別面談の実践知をもとに、働く人の感情と、仕事・関係性・組織の状態をつなげて捉えます。
一律のストレス対処法を伝えるだけではなく、職種や役割に応じて、次の支援を組み合わせます。
- セルフケア研修
- 管理職向けラインケア研修
- 個別面談
- 外部メンタリング
- 管理職への助言・支援
- 面談から見える組織課題の整理
- 仕事・役割・コミュニケーションの見直し
- 組織改善への継続的な伴走
「研修だけでよいのか」
「個別面談や管理職支援も必要なのか」
「社員の問題と、組織の問題をどう整理すればよいのか」
現在の職場に合った支援の入口から、一緒に整理します。
よくある質問
Q1.感情を抑えることは、すべて悪いのでしょうか?
いいえ。仕事では、感情をそのまま表に出さず、状況に応じて調整する必要があります。
問題になるのは、強い感情を長期間抑え続けている場合や、感情を話せる場所がない場合、本人だけに我慢を求めている場合です。
Q2.認知的再評価とは、前向きに考えることですか?
単純な前向き思考ではありません。
一つの捉え方に固定せず、出来事を別の角度から見直し、状況に合った対応を選びやすくする方法です。
ただし、仕事量や職場環境そのものに問題がある場合は、捉え方だけでなく、現実の改善も必要です。
Q3.全社員に同じセルフケア研修を行ってはいけませんか?
共通する基礎知識を学ぶことには意味があります。
そのうえで、接客、医療、教育、管理職など、職種や役割によって異なる感情負担を取り上げることで、学びを実際の仕事へつなげやすくなります。
Q4.個別面談だけで職場は改善しますか?
個別面談は、本人の状態や職場で起きていることを把握する重要な機会です。
ただし、面談で見えた課題を管理職支援、仕事の見直し、職場内の対話につなげなければ、同じ問題が繰り返されることがあります。
Q5.管理職自身への支援も必要ですか?
必要です。
管理職は、部下を支えながら経営や組織の要請にも応える立場にあります。管理職自身が相談できる外部支援や、判断を整理する場を持つことも、組織のメンタルヘルス対策になります。
参考文献
Lim, H., Jang, G.-E., Park, G., Lee, H., & Lee, S. M.(2026). Moderating Role of Occupational Context in the Relationship Between Emotion Regulation and Burnout Syndrome: A Structural Equation Modeling(SEM)Meta-Analytic Review. Journal of Occupational Health Psychology. Advance online publication.
https://doi.org/10.1037/ocp0000440